川崎義博 かわさき・よしひろ

神戸出身。80年頃よりスタジオワーク、音響オペレートワークに従事。その後、音響システム設計を始めとする多くのシステムデザインを担当。海外アーティストのレコーディング、サウンドスケープ作品の製作、サウンドデザインなど、一貫して“音”の世界を構築することに係わる。現在は「新しい音と空間」の創造を目指し、ニューメディアのフィールドで活躍中。現在、サウンド・デザイン・ラボラトリー「NADI」代表。重要な仕事としてSt.GIGA番組製作ディレクターがあり、その成果の一部は sensorium / senseware コーナーにある 「World Ear」 にもおさめられている。その他、日本サウンドスケープ協会理事、京都国際フォーラム企画委員など。神戸在住。

sensoriumのスタッフが
川崎義博さんにお願いした理由


 神戸市灘区。川崎さんの住まいの裏手には、雑木林を擁する八幡様がある。震災で倒れた本殿は修復工事中。だが木々には緑の葉が芽吹き、梢では鳥がさえずっている。
「昭和40年代が一番ひどかったんでしょ、ばっかばっか木を伐って。でも、こういう風景も必要だってこと、わかってほしいよね」




 川崎さんは時々この境内に座り、音を聞く訓練(遊び?)をしていたらしい。普段は漫然と聞いている音に耳を全て開いて、その後、遠くの船の音、小学校の校庭の音、近くの枝だの鳥の声、道を歩いていく人の音。その一つ一つを、丁寧にフォーカスを合わせるように聴き分けていく。
 目をつぶり同じようにしてみると、それまで聞こえていなかった(聴いていなかった)音の風景の中に、自分がいることがわかる。




 海からはときどき汽笛が聴こえる。山の方角では、夕方6時に教会の鐘が鳴る。電車や車が走る音や、踏切の警告音。そして人々が話し、あるいは歩く音。
「街の音がひとつになって聴こえる。稲垣足穂が同じことを書いてたけど、これが神戸の街の音なんだよね」




地震で壊された小さなお社で。背景は樹齢数百年というクスノキ。




「都会からロケに行くと、1日目、2日目、と日が経つにつれてだんだん耳が開いてくるんですよ。モンゴルには視力が5.0とか、そういう人がいるっていうでしょ。あれと同じで、自然の中の、かなり小さな音、遠くの音が聴こえてくる。まわりの音を聴くという意味では受動的なんだけど、同時に非常に能動的になれる。『入り込む』って、こういうことなんだと思います」

「写真家がやることと似てると思いますね。事前にその場所についていろんな形で調べ、何を自分は採るべきなのか。それは僕の場合、その土地の記憶のようなものなんだけど、そのイメージを固める。そしてそのイメージを捉えるために、録る場所と構図を決めるとか、タイミングを測るとか。時間軸が入ってくるというのも似てるんじゃないかな」

「音を聴こうとして意識を集中していると、そのうちに『耳で聴く』という感覚がなくなってくるんです。ものを見たり、触れたりするのと同じというか、全感覚がひとつになった状態というのかな。知覚が統合されて、空気を『感じる』ときさえある。すべての存在が等価であり、自分もその中の一個であると思えてくるのね」


[WORKS]

CD
「OCEAN BLUE」
録音,編集/St.GIGA
企画,販売/日本音楽教育センター
制作/FOA RECORDS
CD
「OCEAN OF SOUND」
制作/VIRGIN RECORDS LTD.
録音協力/川崎義博/NADI
CD-ROM
「COSMOS」
企画,制作/DIZAIN inc.
発売/イシイ株式会社
販売/DYNAWARE co.
CD-ROM
「京の華」
Photograph/岡田克敏
Sound/川崎義博
企画,制作/DIZAIN inc.
発売/イシイ株式会社
販売/DYNAWARE co.
CD
Sound of the Earthシリーズ
「知床/夜明けの流れ」「八重山諸島/夕暮れ」「バリ島/満月の響き」
「カリブ:トリニダード・トバゴ/ロビンソン・クルーソーの島」など
企画,制作/St.GIGA
/川崎義博,野川和夫
発売/東芝EMI株式会社
カセット
学研 3年・4年の読み物特集
「真夜中のともだち」「どんぐりと山猫」など
制作/Sound Designers Union
演出,音の構成/川崎義博
録音/St.GIGA studio

川崎義博さんに
日本をセンスしてもらおうと思った理由


 このコンテンツは、今年の3月、川崎さんがCMの仕事で屋久島へ行きつかまえてきた音で構成されています。彼は10日間ほど島に滞在し、朝から晩までガイドの方と二人で島の中を移動していました。僕が会いに行ったのは仕事も終盤に入った頃で、ちょうど翌日から白谷雲水峡に登り、山小屋で一泊して朝の山の音をとってこようという日でした。

 川崎さんと山を登るのは、凄く面白い経験だった。自分も含めふつうの人達は、峠とかで風景が大きくひらけた時に、「ああ、絶景だなあ」って立ち止まりますよね。深呼吸とかして、遠くの山々に目をやって。彼もよく立ち止まります。でもそれは、風景がいいところとは限らないんですよ。だいいちそういう時、たいてい彼は目をつぶっていますからね(笑)。そして「ああ、いい音だね」ってつぶやいているんです。

 私達は目(視覚)から、9割近い情報を得ていると聞きます。視覚偏重でありすぎたことの反省は、マルチメディアをめぐる議論の中でも繰り返されてきました。目をつむり、普段閉じたままにしている他の感覚回路を開いてみると、どんなに生き生きと世界が感じられることか! 森の中で目を閉じてみると、そこはすごく豊かで不思議な無数の音が響いている世界でした。

 川崎さんと話をしていると、こちらの話声と同時に、厨房の音だとか、遠くの席の人がめくる本のページの音とか、目には見えない風景の拡がり全体を聴いている時があることに気づきます。彼の「聴く」能力は際だったものだけど、基本的には誰もが持っていて、普段あまり開いていないだけですよね。いま窓を開けて目を閉じると、遠くの方で夕食のしたくをしている音が聞こえました。そんなワケなんです。(sensorium スタッフ Nish)

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